定期借家契約とは?不良入居者・賃上げ対策の全手順

管理会社

どうも不動産職人です。

最近、オーナーさんから「定期借家にしたい」という相談が明らかに増えています。

「今の入居者が問題ばかりで、次の更新でなんとかしたい」
「インフレで固定費が上がっているのに家賃が据え置きのまま」
「更新のたびに賃料交渉で消耗する」

こういった声が、私が日々管理の現場で受ける相談の中で急速に増えてきました。
首都圏では2025年時点で東京都の定期借家物件が9.3%に達し、3年で3.6ポイント上昇しています(LIFULL HOME’S調査)。

ただ、「良さそうだから定期借家にしよう」と軽く考えると、大きな落とし穴にはまります。
手続きを一つ間違えるだけで、普通借家扱いになって退去させられなくなるという事例が、現場では後を絶ちません。

この記事では、定期借家契約の仕組みから実際の成功例・失敗例まで、管理会社の現場視点でお伝えします。

要点3行サマリー
・定期借家は期間満了で確実に契約を終了できる強力なツールだが、手続き不備で無効になるリスクがある
・不良入居者対策・賃料リセット・物件売却前の活用など、目的を明確にして使うのが成功のカギ
・普通借家から切り替える際は入居者の同意が必要で、切り替え自体のリスクも理解しておく必要がある

定期借家契約とは何か

定期借家契約(正式名称:定期建物賃貸借契約)は、借地借家法第38条に基づく契約形態です。

普通借家契約との最大の違いは「更新がない」という点です。
契約期間が満了したら、原則としてそこで賃貸借関係が終了します。
入居者が「住み続けたい」と言っても、オーナーが再契約に応じなければ建物明渡しを求めることができます。

普通借家では「正当事由」と「立退料」がなければ入居者を退去させられません。
定期借家にはその縛りがない——これが最大の特徴です。

普通借家と定期借家の比較

項目 普通借家契約 定期借家契約
契約期間 通常1〜2年(更新あり) 自由に設定(1年未満も可)
更新 入居者が希望すれば原則更新 更新なし(合意すれば再契約可)
退去の強制 正当事由+立退料が必要 期間満了で終了、立退料不要
賃料減額請求 入居者から請求できる 特約で排除可能
契約方法 口頭でも成立 書面必須(公正証書等)
事前説明 不要 別途書面交付+説明が必須
一般的な空室リスク 普通 やや高い(入居者が決まりにくい)

なぜ今、定期借家を希望するオーナーが増えているのか

現場で見ていると、大きく3つの理由があります。

理由①:不良入居者を次の更新でリセットしたい

騒音トラブル、夜逃げリスクのある滞納傾向、ゴミ屋敷化……。
普通借家では「正当事由+立退料」がなければ退去させられません。
裁判になれば数年かかることもあります。

定期借家であれば、契約期間満了のタイミングで「再契約しない」と通知するだけで済みます。

私が見てきた現場では、入居審査でやや不安を感じた入居者に対して「最初の2年間は定期借家で」という使い方が増えています。
問題なければ再契約、問題があれば契約終了——というリスクヘッジです。

理由②:インフレ局面での賃料リセット

2024〜2026年にかけて、建材費・人件費・管理コストが軒並み上昇しています。
しかし普通借家では、入居中に賃料を大幅に値上げするのは事実上困難です。
入居者に値上げを拒否されると、調停・裁判まで持ち込まないと変更できません。

定期借家の場合、再契約時に賃料条件を新たに提示できます。
「次の契約では月額7万円から9万円でお願いします」という提示も法的には可能です。
ただし入居者にはその条件を断る自由があります。断られた場合は退去してもらう形になります。
この点は、オーナー側の一方的な権利ではなく「交渉権」として理解してください。

理由③:売却・建替え・リノベ前の活用

将来的に物件を売却したい、建て替えを予定しているというオーナーにとっても有効です。
「3年後に売却予定だから定期借家で」という使い方は、実務上よく見かけます。
賃貸借終了のタイミングを事前にコントロールできるのは、出口戦略を考えるうえで大きなメリットです。

定期借家契約の手続き:ここを間違えると致命的

定期借家で一番多いトラブルの原因が、手続きの不備です。

手続きが一つでも欠けると、借地借家法により「定期借家の合意は無効」と判断されます。
つまり、普通借家として扱われ、期間が満了しても退去させられない状態になります。

必須の手続き3ステップ

ステップ1:書面による契約締結
定期借家契約は、公正証書その他の書面(口頭は不可)で締結する必要があります。

ステップ2:「更新なし」の説明書面を別途交付
これが最も重要で、最も見落とされるポイントです。
「定期借家である」という説明は、契約書とは別の独立した書面で交付し、口頭でも説明しなければなりません。
契約書に記載するだけでは足りません——これが手続き不備で最も多い失敗です。

ステップ3:期間満了の事前通知(1〜6ヶ月前)
1年以上の契約の場合、期間満了の1〜6ヶ月前に「契約が終了します」という書面を送る必要があります。
この通知を忘れると、通知から6ヶ月間は退去を求めることができません

再契約時も同じ手続きが必要

見落とされがちな重要ポイントです。
再契約は「新たな定期借家契約を結ぶ」という扱いになります。
つまり、再契約時にも改めて「更新なし」の説明書面の交付と口頭説明が必要です。
「前回やったから今回は省略」は通用しません。

電磁的方法(メール)による交付

2022年の法改正により、入居者の承諾があれば、電子メール等の電磁的方法で書面を交付することも可能になりました。
ただし、「入居者の承諾を得た」という記録を必ず残しておいてください。

成功パターンと失敗パターン:3ケース比較

成功パターン早見表

ケース 活用方法 ポイント
問題入居者のリセット 更新タイミングで定期借家へ切り替え提案 入居中の一方的切り替えは不可
段階的賃料引き上げ 定期借家で切り替え→再契約時に相場へ引き上げ 初回は低め設定が現実的
ペット可物件の試用 1年定期借家で様子見→問題なければ再契約 入居者に最初から明示することが重要

ケース1:問題入居者のリセット

ある築20年のマンションで、1室の入居者が数ヶ月に1回ペースで隣室住民とトラブルを起こしていました。
普通借家では退去させる正当事由がなく、対応に苦慮していた状態です。

普通借家の契約満了タイミングで「次回は定期借家契約での再契約」を提案し、入居者はやむなく合意。
2年後の期間満了で退去してもらうことができました。

「次の更新から定期借家」という切り替えのタイミングが成功の鍵です。
入居中に勝手に定期借家に切り替えることはできません。

ケース2:段階的賃料引き上げ

都内の1Kマンションで、周辺相場が2年間で10%上昇したにもかかわらず、長期入居者の賃料が据え置きになっていたケースです。

更新タイミングで定期借家への切り替えを提案し、相場より少し低い賃料で合意してもらいました。
2年後の再契約時に相場に合わせた賃料へ変更することができました。

普通借家のまま強引に値上げしようとすると、入居者に拒否されて調停に発展するリスクがあります。
定期借家の「再契約時に条件リセット」という特性を活用した成功例です。

ケース3:ペット可物件での試用期間的活用

ペット可物件でリスクを感じる入居者に対して、最初の1年を定期借家で契約するケースがあります。
「ペットや生活ルールで問題がなければ再契約」というルールを最初から明示することで、入居者側も自覚を持って生活するようになります。

失敗パターン:こんな使い方は危険

失敗1:書面交付なしで「口頭で説明した」

最多のトラブル事例です。
「説明した」「していない」という争いになった場合、書面がなければオーナーは不利です。
「更新なし」の説明書面は、必ず契約書とは別に作成・交付してください。

失敗2:再契約時の手続き省略

再契約は「新たな定期借家契約を結ぶ」行為です。
前回の手続きがあっても、再契約時に改めて書面交付と口頭説明が必要です。
郵送だけで再契約を完了させようとすると、定期借家が無効と判断されるリスクがあります。

失敗3:普通借家から強制切り替え

入居中の普通借家を、オーナー側の都合で一方的に定期借家に変更することはできません。
あくまでも入居者の同意が必要です。
「次からは定期借家です」と言っても、入居者が同意しなければその合意は無効です。

失敗4:空室リスクの軽視

定期借家は入居者にとって「いつか出ていかなければならない」という制約があります。
同じ条件の普通借家と比べると、入居者が決まりにくく、空室期間が長くなりやすい傾向があります。
賃料設定・条件緩和・入居検討者への丁寧な説明など、空室対策を事前に検討しておく必要があります。

普通借家から定期借家への切り替え:実際の手順

入居者への切り替え交渉では、以下の流れが現実的です。

1. 更新通知と同時に定期借家への切り替えを提案する
「次の更新は定期借家契約でお願いしたい」という旨を、更新時期の3〜4ヶ月前に書面で伝えます。

2. 切り替えのメリットを入居者目線で伝える
「更新料が不要になる」「一定期間は安定して住める」など、入居者にとってのメリットも明示すると合意を得やすくなります。

3. 書面を整える
管理会社と連携して、定期借家の契約書・別途説明書面・入居者の承諾書を準備します。

4. 対面で説明・署名をもらう
郵送のみでの手続きは後日のトラブル原因になります。可能な限り対面(またはオンライン面談)で説明し、署名してもらいましょう。

管理会社に相談すべき理由

定期借家契約は、オーナーが自分で手続きを進めることも可能です。
ただし、手続きの不備が致命的なリスクになるため、管理会社への相談を強くお勧めします。

管理会社が担うべき役割は次の通りです。

  • 書面作成のサポート(契約書・説明書面の両方)
  • 入居者への丁寧な説明の代行
  • 期間満了通知のタイミング管理
  • 再契約時の手続きフォロー

特に再契約時の書面交付は、見落とされがちな盲点です。
「前回やったから大丈夫」という思い込みが、最も多い失敗パターンです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 定期借家契約は1年未満で設定できますか?
できます。普通借家は1年以上が原則ですが、定期借家は法律上の期間制限がありません。6ヶ月や3ヶ月の設定も可能です。

Q2. 定期借家にすると家賃は下がりますか?
一般的に、同条件の普通借家と比較して5〜10%程度低く設定するケースが多いです。入居者の「いつか出なければならない」というリスクを賃料で補う形です。

Q3. 再契約は必ずしないといけませんか?
いいえ。再契約するかどうかはオーナーと入居者双方の合意によります。再契約しない場合、期間満了で賃貸借終了となります。

Q4. 定期借家でも賃料の値上げは契約期間中にできますか?
基本的にはできません。賃料変更は再契約のタイミングが最もスムーズです。

Q5. 既存の普通借家入居者を定期借家に変えたいのですが?
入居者の同意が必要です。一方的に変更することはできません。更新タイミングで丁寧に交渉するのが現実的です。

Q6. 定期借家の説明を媒介業者がしても良いですか?
できます。ただし、貸主(または貸主から委託を受けた者)が行う必要があります。媒介業者が重要事項説明と併せて行うことも認められていますが、書面の交付は必須です。

Q7. 入居者が退去しない場合はどうすれば良いですか?
期間満了後も入居者が退去しない場合、建物明渡し請求訴訟を提起することになります。定期借家は普通借家と異なり、更新がないため、裁判では比較的オーナーが勝ちやすい状況です。

Q8. 定期借家は公正証書でないといけませんか?
「公正証書等の書面」とされており、公正証書でなくても書面であれば有効です。ただし紛争予防の観点から、公正証書にすることが望ましいケースもあります。

Q9. 期間満了通知を忘れた場合はどうなりますか?
1年以上の定期借家契約では、期間満了の1〜6ヶ月前に通知が必要です。通知が遅れた場合、通知から6ヶ月後まで退去を求めることができません。

Q10. 定期借家で家賃滞納者への対応は変わりますか?
契約期間中の滞納対応は普通借家と同じです。ただし、定期借家の場合は期間満了時に確実に退去させる選択肢があるため、長期的なリスクは抑えられます。

まとめ

定期借家契約は、正しく使えばオーナーにとって非常に有効なツールです。

不良入居者のリセット、賃料の定期的な見直し、将来の売却・建替え前の活用——いずれの目的においても、普通借家には代えられない機能を発揮します。

ただし、手続きの正確さが全てです。
書面交付の不備一つで普通借家扱いになり、せっかくの対策が水の泡になることは現場で何度も目にしてきました。

「定期借家にしたい」と思ったときは、まず管理会社に相談してください。
書面作成から通知管理・再契約フォローまで、一連の手続きをサポートしてもらうことが、失敗を防ぐ最も確実な方法です。

不動産職人としての見立てでは、定期借家の活用はこれからの賃貸市場で標準的な選択肢になっていくと見ています。
インフレが続く中で、賃料を市場に合わせて更新できる仕組みは、健全な不動産経営に欠かせないものになるからです。

ご相談はいつでも。


参考:公的機関・公式団体の解説

本記事の内容は、以下の公的機関・公式団体の解説と整合する形でまとめております。

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