どうも不動産職人です。
「隣のアパートは家賃を上げたらしい。うちも上げられるのか」
最近、この相談が急増しています。
一方で「家賃を下げても空室が埋まらない」という声も、同じだけ届きます。
同じ賃貸なのに、なぜここまで差がつくのか。
今日は賃上げできる物件とできない物件の分かれ道を、募集現場の視点で解説します。
要点3行サマリー(先に結論)
- 家賃は上がっているが、上がっているのは「一部の物件」だけ。市場は賃上げ組と価格競争組に二極化している。
- 分かれ目は築年数そのものではなく、立地・設備・募集力を合わせた「競争力」。
- 値上げには借地借家法32条という裏づけがあるが、実務は周辺相場の把握と管理会社との査定が出発点。
家賃は上がっている。しかし、すべての物件ではない
まず事実から確認します。
賃料の上昇は、感覚ではなくデータに出ています。
各社が公表する賃料インデックスによれば、東京23区のマンション賃料は前年同期比プラス5.3%。
しかも13四半期連続で過去最高値を更新しています。
タイプ別でも、シングル・コンパクト・ファミリーの全区分で上昇。
特にファミリー型はプラス12.4%と勢いが際立ちます。
都心3区(千代田・港・渋谷)や人気路線の沿線では、募集の段階から「取り合い」が起きています。
ここだけ見ると「賃貸は好調」に思えます。
しかし、これは平均の話です。
同じ市場の中で、家賃を下げても3か月空室のままという物件も確実に増えています。
つまり今の相場は一枚岩ではなく、賃上げできる物件と、価格競争に巻き込まれる物件に、くっきり分かれているのです。
賃上げできる物件に共通する条件
では、どんな物件が「上げられる側」なのか。
現場で見ていると、共通点があります。
| 条件 | 賃上げのしやすさ |
|---|---|
| 駅徒歩10分以内 | ◎ |
| 築15年以内、または設備更新済み | ◎ |
| 人気エリア・人気学区 | ○ |
| 大型スーパーなど生活利便が近い | ○ |
| ネット無料・宅配ボックスあり | ○ |
| ファミリー向けの希少な間取り | ◎ |
ポイントは、これらが「相手が他で見つけにくい価値」であることです。
駅近や築浅は、そもそも供給が限られます。
だから多少家賃が高くても、選ばれます。
郊外でも同じで、人気エリア・築浅・リノベ済み・ファミリー希少物件は賃料が上がり、募集期間も短くなっています。
逆に、賃上げが難しい物件
ここが一番読まれるところだと思います。
賃上げが難しい物件には弱点があり、多くは改善できます。
| よくある弱点 | 先にやるべき改善策 |
|---|---|
| 築が古く設備が当時のまま | 浴室・洗面・キッチンなど水回りの更新 |
| 駅から遠い・競合供給が多い | ネット無料・宅配ボックスなど付加価値の追加 |
| 募集写真が弱く見られていない | 写真の撮り直し・募集条件の見直し |
大事なのは、築年数だけで決まらないという点です。
築30年でも、浴室交換・独立洗面・宅配ボックス・ネット無料を整えたことで賃料を上げられたケースはあります。
つまり勝負を分けているのは、築年数ではなく競争力です。
こうした物件は、値上げより先に「商品力の改善」が近道になります。
値上げの前に必ず確認したい5つ
「上げられそうだ」と思っても、いきなり通知するのは危険です。
実務では、次の5点を先に押さえます。
| 確認項目 | どこで調べるか |
|---|---|
| 周辺の募集賃料 | ポータルサイト・管理会社 |
| 直近の成約賃料 | レインズ・管理会社 |
| エリアの空室率 | 管理会社・自治体/公的統計 |
| 競合物件の設備 | 競合の募集図面・現地確認 |
| 賃料増額の法的根拠 | 借地借家法32条・契約書の特約 |
特に5番目は誤解が多いところです。
借地借家法32条では、土地建物の価格上昇や近隣相場との不均衡があるとき、貸主から賃料の増額を請求できます。
ただし、契約書に「賃料を増額しない特約」があると、この請求は制限されます。
そして実務上は、いきなり法律を振りかざすより、入居者との話し合いが基本です。
根拠となる相場データを示せるかどうかで、交渉のしやすさは大きく変わります。
賃料査定を精緻にするには|管理会社と一緒に進める
ここまで読んで、「自分の物件はどちらだろう」と思われたはずです。
その答えは、周辺の募集・成約データを見れば、ある程度はっきりします。
ただし、査定の精度はやり方で大きく変わります。
物件情報と周辺相場だけで出す「机上査定」は手軽ですが、物件の個性までは反映しきれません。
現地を見て設備・眺望・管理状態まで確認する「訪問査定」のほうが、精度は上がります。
さらに、レインズやポータルの成約データを使い、条件の近い物件と比べる「賃貸事例比較法」で裏づけると、根拠のある数字になります。
査定を精緻にするコツは、情報を出し惜しみしないことです。
リフォーム歴、ネット無料や宅配ボックスなど独自の強み、逆に傷や不具合まで正直に共有してください。
私たち管理会社は、そのエリアで「今いくらで決まっているか」を日々見ています。
同じ築20年でも、募集開始1週間で申込が入る物件と、3か月空室になる物件の差も、現場だからこそ分かります。
相場と大きく離れている場合は、一気に上げない
査定の結果、今の家賃が相場よりかなり安いと分かることがあります。
このとき、差額をいっぺんに乗せるのは危険です。
上げ幅が大きいほど、入居者の退去リスクが高まるからです。
目安として、相場との差が5%以内なら合意を得やすい水準です。
5〜10%は、丁寧な説明とあわせて段階的な改定を検討します。
10%を超えると、一度に上げると退去につながる可能性が一気に高まります。
そこで、相場との差が大きい場合は2段階・3段階に分けて上げるのが現実的です。
| 相場との差 | 進め方の目安 |
|---|---|
| 〜5% | 更新時に一括で改定しやすい |
| 5〜10% | 丁寧な説明+必要に応じて2段階に分割 |
| 10%超 | 2〜3段階に分け、各回の幅を抑えて計画的に |
たとえば相場より1.5万円安いなら、更新のたびに5,000円ずつ、2〜3回に分けて近づけていくイメージです。
進め方のコツは、更新通知より早めに「次回から改定を検討している」と予告しておくこと。
入居者に心の準備の時間ができ、空室リスクをぐっと抑えられます。
値上げできるのか、段階的に近づけるのか、それとも先に設備を整えるべきなのか。
判断に迷ったら、まずは賃料査定から始めてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 入居者がいる状態でも家賃を上げられますか。
法的には借地借家法32条で増額請求が可能です。ただし相手の同意なく即通るわけではなく、実務は話し合いと相場データの提示が基本になります。
Q2. どのくらい上げても大丈夫ですか。
周辺の成約賃料が基準です。募集賃料ではなく「実際に決まっている金額」に対して見劣りしなければ、その水準までは狙えます。
Q3. 築古物件はもう値上げは無理ですか。
いいえ。設備更新で競争力が戻れば、築古でも賃料アップの余地はあります。築年数ではなく競争力で判断します。
Q4. 値上げしたら退去されないか不安です。
だからこそ、周辺相場と自室の競争力を先に確認します。相場内なら、退去されても次の入居付けで回収できる可能性が高くなります。
Q5. 家賃を下げても決まりません。何が原因ですか。
多くは価格ではなく商品力です。写真の弱さ、設備の古さ、募集条件が原因のことが少なくありません。値下げの前に募集内容を点検してください。
Q6. 賃上げの通知は口頭でよいですか。
後々のトラブルを避けるため、書面で根拠とともに伝えるのが安全です。
Q7. 更新のタイミングでないと値上げできませんか。
32条の増額請求は更新時に限られませんが、合意形成のしやすさから更新時が現実的です。
Q8. サブリースでも賃料は上げられますか。
契約条件次第です。賃料改定条項が個別に定められているため、まず契約書の確認が必要です。
Q9. 設備投資はいくらまでかけてよいですか。
上げられる賃料の差額で何年で回収できるかで判断します。回収5〜7年以内が一つの目安です。
Q10. 相場より高い家賃で入居中の人にも上げられますか。
すでに相場より高い場合は増額の根拠が乏しく、むしろ退去防止を優先すべきケースです。
まとめ
家賃は上がっています。
ただし、上がっているのは競争力のある物件だけです。
市場は「賃上げできる物件」と「価格競争に巻き込まれる物件」に二極化しました。
分かれ目は、築年数ではなく立地・設備・募集力の総合力です。
そして値上げには借地借家法32条という裏づけがありますが、出発点はあくまで周辺相場の把握です。
「うちはどちらだろう」と思ったら、まず賃料査定から。
その一歩が、これからの二極化を生き抜く分かれ道になります。
参考:公的機関・一次情報
- 国土交通省「住宅市場動向調査」 https://www.mlit.go.jp/report/press/house01_hh_000001.html
- e-Gov法令検索「借地借家法(第32条 借賃増減請求権)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090
- 公益財団法人 不動産流通推進センター https://www.retpc.jp/
- 公益財団法人 東日本不動産流通機構(レインズ) https://www.reins.or.jp/


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