どうも、不動産職人です。
「年収600万円ですが、一棟アパートって本当に買えるんでしょうか?」
これは現場で何度もご相談を受ける話なのですが、結論から申し上げると「条件付きで可能、ただし選べる物件・エリアは絞られる」というのが正直なところです。
ネット上では「年収500万円台でも1億円のアパートを買えた」という景気のいい体験談も見かけますが、その多くは2017年頃までの融資環境を前提にした話で、今(2026年時点)の銀行の審査基準とは前提が異なります。
今回は、年収600万円のサラリーマン投資家が組める融資の現実、1億円超の物件を狙うために必要な年収水準、そして「いきなり大きな融資を組まない」堅実なステップアップ戦略まで、現場で長く管理・売買に関わってきた立場から整理してみます。
1. 年収600万円のサラリーマンが組める融資限度額
要点3行サマリー
・融資限度額は年収の7〜8倍が一般的、上限でも10倍程度。
・年収600万円なら、おおむね4,200万〜4,800万円(上限で6,000万円前後)が目安。
・属性(勤務先・勤続年数・自己資金)で同じ年収でも結果は大きく変わる。
まず、サラリーマンが投資用不動産でアパートローンを組む場合、年収倍率(年収の何倍まで貸すか)が一つの目安になります。
実務感覚では、地方銀行・信用金庫・ノンバンクなど、いわゆるアパートローンを扱う金融機関の年収倍率は、おおむね7〜8倍が標準、上限でも10倍程度です。
年収600万円の場合、単純計算で次のような融資限度額になります。
| 年収倍率 | 融資限度額の目安 |
|---|---|
| 7倍 | 4,200万円 |
| 8倍 | 4,800万円 |
| 10倍(上限) | 6,000万円 |
ただし、これはあくまで「最大ここまで貸す可能性がある」というレンジの話です。
実際の与信判断では、勤務先の安定性、勤続年数、家族構成、既存の借入(住宅ローン・カーローン・教育ローン等)、自己資金の厚みが総合的に見られます。
同じ年収600万円でも、上場企業に10年勤めていて自己資金1,000万円を持っている方と、転職1年目で自己資金100万円の方とでは、引き出せる融資額は大きく変わります。
2. 現実的に狙える物件タイプは2つに絞られる
要点3行サマリー
・選択肢は「地方・郊外の築古木造アパート」と「地方主要都市のコンパクト新築・築浅アパート」が中心。
・前者は利回り重視で物件価格2,000万〜4,000万円台、後者は4,000万円台が中心。
・物件選びは「融資が出るか」と「賃貸需要が続くか」の両面で見る。
融資枠が4,200万〜4,800万円(上限6,000万円)程度に収まるとなると、現実的に検討できる一棟物件は、ざっくり次の2タイプに分かれてきます。
タイプA:地方・郊外の築古木造アパート(2,000万〜4,000万円台)
地方都市や郊外の築20〜30年クラスの木造アパートは、価格帯が2,000万〜4,000万円前後に収まりやすく、表面利回りも10%前後を狙えるケースがあります。
ただし、人口減少エリアでは長期の賃貸需要そのものが細る懸念があるため、価格の安さだけで飛びつくのは危険です。
国土交通省は不動産価格指数を毎月公表しており、エリア別・住宅/商業用別の中長期トレンドを確認することができます(参考:不動産価格指数|国土交通省)。
タイプB:地方主要都市のコンパクト新築・築浅アパート(4,000万円台中心)
仙台・新潟・金沢・岡山・福岡近郊などの地方主要都市では、6〜8戸程度のコンパクトな新築・築浅木造アパートが4,000万円台で売り出されることがあります。
築古より利回りは下がりますが、修繕リスクが小さく、賃貸需要が読みやすい点で、サラリーマン投資家の最初の一棟としては相性がよいケースもあります。
3. 「資金調達がしやすかった時期」と、その後の環境変化
要点3行サマリー
・2013〜2017年は異次元金融緩和・マイナス金利下で投資用融資が積極化した時期。
・2018年のスルガ銀行問題と金融庁の監督強化以降、審査は大きく厳格化。
・「昔の体験談」をそのまま今に当てはめないことが重要。
ここで一度、融資環境の歴史を整理しておきましょう。
2013年以降、日本銀行は「量的・質的金融緩和」を導入し、2016年には「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入するなど、長期にわたる大規模緩和を続けてきました(参考:2013年以降の「量的・質的金融緩和」のもとでの金融政策|日本銀行)。
この時期、地方銀行を中心に投資用不動産向け融資が積極化し、年収500〜700万円台のサラリーマンでも1億円前後のアパートに融資が付くケースが珍しくありませんでした。
しかし2018年、いわゆる「かぼちゃの馬車」シェアハウス向け融資をめぐる問題が表面化し、金融庁はスルガ銀行に対して業務改善命令(投資用不動産向け融資の新規停止を含む一部業務停止)を発出しました(参考:スルガ銀行株式会社に対する行政処分について|金融庁)。
その後、金融庁は投資用不動産向け融資に関するアンケート調査を実施し、銀行界の取組み状況や審査態勢の点検を進めてきました(参考:投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果について|金融庁)。
これにより、自己資金の確認、賃料下落を織り込んだ収支シミュレーションの提示、サブリース契約への依存度チェックといった項目が、各行で重視される方向に変わってきました。
加えて、サブリース契約に関しては賃貸住宅管理業法(サブリース新法)が施行され、勧誘行為や重要事項説明についてのルールが整備されています(参考:賃貸住宅管理業法ポータルサイト|国土交通省)。
つまり、2017年以前の「資金調達がしやすかった時期」の体験談を、そのまま2026年の自分に当てはめるのはかなり危ない、ということです。
4. 1億円超の物件には、どのくらいの年収が必要か
要点3行サマリー
・1億円超のアパートはメガバンク・主要地銀の領域で、年収1,000万円超が目安。
・年収・自己資金・物件評価のいずれかで「足切りライン」を超える必要がある。
・年収だけ届いていても、他の条件が弱いと否決されるケースは多い。
1億円を超える一棟物件になると、融資の出し手は地方銀行の中でも比較的体力のある主要地銀、もしくはメガバンクのアパートローン部門が中心になります。
このクラスでは、おおむね年収1,000万円以上が一つの足切りラインとされているのが実務上の感覚です。
年収600万円から、いきなりこのレンジを狙うのは現実的ではありません。
ただし、年収1,000万円に届かない場合でも、次の3つの方法を組み合わせることで道が開けるケースがあります。
- 自己資金を物件価格の20〜30%入れる(銀行のリスクを下げる)
- 積算評価が出やすい物件を選ぶ(土地値・建物の再調達原価が高い物件)
- 金利水準の高いノンバンクを使う(金利3〜4%台。事業性で見てくれる)
ただし、ノンバンクは金利が高いぶん収支が圧迫されやすく、出口戦略(売却・借り換え)も難しくなりがちです。
「借りられる」と「事業として回る」は別物だということは、強くお伝えしておきたいところです。
5. 年収600万円からの堅実なステップアップ戦略
要点3行サマリー
・いきなり大きな融資を組まず、3ステップで「投資家としての実績」を積む。
・Step1:自己資金500〜800万円を貯める。
・Step2:区分マンションや中古戸建てで運用実績を作り、Step3で一棟へ。
最後に、私からおすすめしたい現実的なルートを整理します。
Step1:自己資金500〜800万円を貯める
最初のステップは、地味ですが自己資金を積み上げることです。
物件価格の1〜2割と諸費用を合わせると、4,000万円前後の物件で500〜800万円程度の手元資金があると、融資交渉がぐっと有利になります。
Step2:区分マンション・中古戸建てで運用実績を作る
次に、500万〜1,500万円程度の区分マンションや中古戸建てで1〜2件運用実績を作ります。
ここでのポイントは「儲ける」よりも「賃貸経営の実績と決算書を作る」こと。
確定申告で青色申告を継続し、入出金や修繕履歴を整えておくと、次の融資交渉で「この方は賃貸経営をきちんと回せる人」と評価されやすくなります。
Step3:一棟アパートへステップアップ
実績ができたら、いよいよ一棟アパートに進みます。
年収・自己資金・賃貸経営の実績、そして「どの金融機関で、どんな物件なら通るか」を逆算しながら、無理のないレンジから始めるのが王道です。
不動産職人としての見立て
要点3行サマリー
・年収600万円でも、4,000万円前後の一棟アパートから入口に立つことは可能
・いきなり1億円を狙わず、区分・戸建てで実績を積む堅実ルートが王道
・融資環境は時期によって大きく異なるため、成功体験は「いつの話か」を必ず確認する
年収600万円でも、一棟アパート投資の入口に立つことは十分可能です。
ただし、狙うべきは「いきなり1億円」ではなく「まず4,000万円前後で実績を作る」という現実的なルートです。
そして、融資環境は2013〜2017年の「資金調達がしやすかった時期」と、2018年以降の「審査が厳格化した局面」では大きく異なります。
ネットや書籍で見かける成功体験を読むときは、いつの時代の話なのかを必ず確認するくせをつけてください。
もし具体的に動き出すフェーズに入られたなら、まずは信頼のおける不動産営業マンや、地元の信用金庫・地方銀行の担当者にご相談されることをおすすめします。
担当者と顔の見える関係を築きながら、自分の属性で「どこまで何が可能か」を一緒に詰めていくのが、遠回りに見えて一番の近道です。
参考:公的機関・公式団体の解説
本記事の内容は、以下の公的機関の解説・公表資料と整合する形でまとめております。融資環境や制度の背景について、より詳しくお知りになりたい方はあわせてご覧ください。


コメント